【デンマーク記録】くらしはじまり

2017年の夏の終わりから半年間、デンマークで暮らした。

大学に就職する前のその貴重な6か月を、大好きな国で、研究に費やすことができたのは本当に幸運だった。たくさんの素敵な人に出会った。

当時は自分用にちょこちょこ日記を書くしかできなかったけど、あの時期に見聞きしたこと、考えたこと、受けた刺激や話した内容、振り返ってみないともったいないんじゃないかという気がしてきたので、掘り起こして記録してみようと思う。

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暮らしていたのはRoskildeというコペンハーゲン郊外の大学のある町。

大学から自転車で5分のところで、初老のご夫婦のおうちを間借りしていた。ピアとヤン、ふたりは半年間ずっと私のサポーターだった。

ピアは社会福祉関係の公務員で、毎日私と話すのを楽しみにしてくれた。友達に話せないようなこともたくさん話した。ヤンは元ヒッピーの共産党系の建築家で、もう70歳のおじいちゃんだけど超かっこいい。いつも裸足で歩いていて、素手でくるみの殻を割ったりフォークで瓶ビールの蓋を開けたりする。

ふたりの子どもは3姉妹で、ふだんは遠くに暮らしている。3姉妹の部屋を借りて私は暮らし始めた。私の部屋のベランダにはリスや野ウサギが遊びにきて、むかし読んだリンドグレーンの物語を思い出した。ピッピやカッレくんみたいな子ども時代を過ごせたらいいのに、とずっと思っていた私は、大人になってピッピやカッレくんみたいな家で過ごせることが本当に夢みたいだった。(部屋にカーテンもブラインドもないので、訪ねてくるお客さんから私の部屋の中が丸見えなことは、最初は気にしないことにした。)

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(初めてうさぎと目が合った朝)

ヤンが設計した大きな窓の多いおうち。2階は夫婦のためのリビングと書斎、寝室がある。1階にある広いキッチンとダイニングは共用、3姉妹用のリビングと個室1室、3姉妹のバスルームを私が使っていいという。

ご飯は各自で、と言っていたけど、そのうち「晩ごはんは一緒に食べたほうが効率がいいのでは」という話になり、予定が合う日は3人で晩ごはん、週に1回は私が夕食当番をすることになった。

デンマーク人の夕食は、オーブンでメインを一品、それに付け合わせ(イモ)かサラダがつけば上等。簡単なのに豪華で良い。ピアが野菜とナッツが好きなので、いろんなサラダを食べさせてくれた。キャベツとナッツのサラダとか、レタスとオレンジのサラダとか。私は鍋でお米を炊くのが絶望的に苦手で、お米を炊こうとすると焦がしてばっかりだったけど、ふたりはいつも笑ってくれた。

 

半年間、毎日が穏やかに過ぎて、少し寂しくなったり落ち込むことがあっても総じて機嫌よく居られたのは、やっぱり一貫してふたりがサポートしてくれていたからだ。デンマーク滞在から5年が経つけれど、今でも恋しいのはデンマークの景色でも、料理でも、空気でもなくて、やっぱりピアとヤン。

ふたりに見守られながら、半年間で私は少しの成長を遂げたと感じている。その半年の成長のお話を、少しずつ、ここでご報告していきます。