【デンマーク記録】話し合い(ダイアローグ)文化

ある日の20時ごろ、友達の家で夕飯を呼ばれて帰ってくると、ホストファミリーの家で今まさに、いわゆる自治会の会議が始まろうとしているところだった。自治会のことはBestyrelsenと呼んでいた。

実は私の修論のテーマは「デンマーク保育所の利用者参加の仕組み」で、保育所の保護者委員会(Bestyrelsen)がめっちゃ施設運営に関与してますよ、というものなのだけど、この「委員会(bestyrelsenとかrådとか言う)」がデンマークではありとあらゆる所で出てくる。生徒会、高齢者施設の利用者委員会、この日に集まっていたのはこの地域の「住民委員会」といったところだろうか。

「ももこも興味があったら聞いてていいよ」

とヤンが誘ってくれたので、お言葉に甘えて同席させてもらうことに(全編デンマーク語なので2.5割も理解できないけど)。ゲストは6人、男性3人と女性3人。ヤンを入れて7人になる。それぞれおそらく30代、40代、50代。ヤンが一番年上じゃないだろうか。でも別に年長者だからって敬われるわけではない。この日は誰か司会がいるわけでもなくて(書記はいるし委員長もいるんだけど)、みんなでダイニングテーブルを囲んで好きに発言している。全員が水平な関係で、誰がエライ、この人の言うことは聞かねば、ということがないのがデンマークの会議の特徴的なところ。

話し合いの内容は、サンクトハンス(*)の焚火をどこにするか、ということ、大学からの騒音について、音楽祭を開く話、大学の設備を使って映画をみるのはどうか、という話。
細かいニュアンスまでは分かっていなかったけど、騒音についてかなりの時間話し合っていたように思う。ある年長の女性が大学の湖のそばに住んでいて、やってくるなり私(所属は大学の客員研究員です)にまで「今までこんなことなかったのに、今年は異様にうるさい!」とエキサイト。
それが議題に上がった時に、みんな「まあまあ」と諫めるというわけでもなく、音はどこから来ているのか、どういう理由できているのか、大学と話し合うとすれば誰と話すのか、丁寧に扱っていた。「それは政治的な話題にすべきか」ということに慎重だったように思う。これは、Bestyrelsenの原則でもある「個人的なことを会議で話し合わないように」ということなのだろう。ただクレームを集める協議体になってはいけなくて、コムーネや大学と住民がいい関係を築いていけるような話し合いでなければならない
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こういう会議を見ていていつも思うが、デンマークの人たちは本当に話し合いが好きだ。他にも「ダイアローグ文化」という言葉を実感したエピソードがある。新学期に大学内でやっているコーラスクラブをFacebookで見つけて参加してみた時のこと。
新学期の最初の練習で、指揮者(顧問)ステファンが持ってきた曲をみんなで歌ってみましょう、という会だった。みんなで譜読みして、休憩時間をはさんで再開すると5人くらい帰っちゃった子がいるのに気づいて、ステファンが真剣な表情になり、「ちょっとしたevaluationをしてくれないか」と言い出した。曲の選定について、みんなに意見を求める指揮者。え?部活の顧問なら勝手に決めてくれよ…と思うが、さすが対話の国デンマーク。17人残った内の1人ドイツ人、1人日本人(わたし)、あとは全員デンマーク人の学生だったが、突然車座になってミーティングが始まる。そして「曲の難易度が原因でかどうかはわからないが、帰ってしまった人がいるとはそういうこと」みたいなシビアな意見が…
「私はVoteがいいと思う」
「私は、あなたが最初に曲をピックアップすればみんな満足だと思う」
「でもそれだとなぜその曲がいいのか議論ができない」
「じゃあ曲についてのプレゼンテーションをすればいいと思う」
「いや、私は貴重な2時間できるだけたくさん歌いたい。曲を決める話し合いにあんまり時間を割くのはいかがなものか」(←ごもっとも)
「それはよくわかる。僕はでも、曲を選ぶということについてひとりひとりの責任が…」
こんな調子!正直めんどくさい!!!みんな大人で、そんなガチな部活とかじゃなく趣味で週に1回歌いに来てるんだから与えられた曲を気楽に歌えばよくない!?
 
でもそう、話し合いっていうのはめんどくさいのだ。民主主義とはめんどくさいものなのだ。誰かその場で異議を唱えている人、意見を持っている人がいた場合、その異議や意見は聞かれなくてはならない。
こういうめんどくさいプロセスを、デンマーク人たちはきっと子どもの頃から練習し、他人の意見を聴くことと自分の意見が聴かれることの価値を学んできたんだろうな。
 
(*)サンクトハンスとは、デンマーク夏至のお祭り。大きな焚き火で魔女の人形を燃やすという、見た目インパクト強めの行事です。
(北欧アンティーク雑貨のImayaさんYouTubeより)
このあと、デンマーク人同僚に「サンクトハンスのファイヤープレイスの場所で30分は話していたよ!」というと「それは大事だから!」と真剣に言われた。子どもの頃は、クリスマスツリーとサンクトハンスの焚火の大きさがとっても重要だったそうです。