【デンマーク記録】保育園のこと

デンマークでの子育てについて、事あるごとにピアに話を聞いていた。

彼女は、30歳すぎで初めて妊娠して、三姉妹を育てあげたお母さん。典型的なデンマーク人家庭、子育てには友達家族や親戚と協力して取り組む。3家族合同でスウェーデンに別荘を買って、長期休暇は子どもたちを連れてその家で過ごす。コレクティブ(コミューン)に住んでいたことのある彼女は、「家族を閉じない」「風通しを良くする」ということを意識的に実践していた。

いろいろ面白い話を聞いたのだけど、今日はある日の夕食で話題になったデンマークの保育士さん(ペダゴー)について。

ペダゴーは、デンマークでとても人気の職業である。保育所で働くだけではなく、学童保育や児童福祉関係の施設、ときには成人を対象とした施設などでも専門職として働くことがある。私も、デンマークにいる間に「ペダゴー」を肩書としている人にたくさん、たくさん出会った。

デンマーク保育所はとにかく、子どもを自由に遊ばせる。

日課はほとんど決まっていなくて、子どもがやりたい遊びをする。毎日雨が降ろうが雪が降ろうが(台風並みに)風が強かろうが外に出て行って遊ぶ。しかも、どこの保育所も園庭がめちゃくちゃ広い。初めてデンマーク保育所に行ったときは、「自由でいいなあ」というより前に「本当にこれでいいのか!?」と驚いたものだ。

広大な敷地の森(デンマーク保育所は、バスに乗って森に遊びに行くのだ。保育所が持っている「森のようちえん」が郊外にあったりする)に子どもを解き放ち、ペダゴーたちはいそいそとコーヒーを入れてくつろいぎ始める。日本で、終始気を張って「子どもの安全」に注意を払う保育士さんの姿とは全く違って見えた。森でのおやつ・お昼の時間に、手を拭いたりしない不衛生っぷりにも最初はびびった。(それでいて冬になると手洗い場に「インフルエンザA型が流行っています!」なんて張り紙をしてるから面白い。)

でもそういうことも含めて、日本でデンマークの紹介をすると、ギチギチに管理されてしまう日本の保育所と対比して「自由にのびのびさせていていい」とか「無菌室で育てるよりいい」といった評価をされることが多い。

しかしピアと話していて、現在のデンマーク保育所事情をデンマーク人保護者が丸ごと肯定しているわけではないな、と気づく。
ピア曰く、三姉妹が保育所に通っていた頃は、保育所でタバコを吸うのは認められていた(今はさすがにダメ)。「ビールを飲みながら保育士がタバコを吸っているような保育所に、だれが子どもを預けたいと思う!?」と言われて、デンマーク保育所に過剰な期待を抱くのはダメなのね…と考えを改めました。いろいろ言いたいことはあるよね。


ペダゴーという職業の専門職としての地位は、相対的に低い。これは、ケア職の地位が低いという普遍的な問題で、ピアは、ケア職の地位が低いことに対しては一貫して反対の立場を取っている。けれど「でも専門職の意識が低いペダゴーがいるのも確か」と話す。パジャマみたいな恰好で来て床に座る、そのまま立ち上がって「Monaです!」とかって自己紹介をする。これは専門職のする仕事ではない、と…(これも、デンマークではファーストネームで呼び合っていいわね、と私は思っていたけど)。

いろいろな評判があることは知っていた。「保育なんかしないでコーヒーばっかり飲んでいる」という批判も知っていた。でもそれは良いところのひとつであって、ペダゴー個人がリラックスして仕事をできているという意味でもあると。そう思っていたし、今もそう思う。日本の保育士さんの窮屈な働き方を見ていると、ちょっとふてぶてしいぐらいが、いいのではないか。


そして面白いのは、ペダゴー専門職がその批判に自覚的であること。「私たち、子どもの世話をしないでコーヒー飲んでるばっかりに見えるでしょ?でも考えてるんですよ~」という広告が新聞に載っていたことがあるという。「子どもの世話をしない」保育士、という批判に自覚的ってどんなんやねん!てなるけど、そのふてぶてしさも込みで「デンマークの保育士」なんだろうな、と思う。

 

デンマーク保育所の駐輪場